走りに全振りしたSUV
ステルヴィオで踏みつぶせそうな124スパイダー…全長はカタログ値でおよそ400mm違う
ステルヴィオを駐車場に収めるため、およそ一ヵ月もの間、わが物顔でメインカーの駐車場を占拠していたアバルト124スパイダーはもとの狭苦しい駐車場に戻される。
ハイパフォーマンスカーとピュアスポーツカー
ステルヴィオと124スパイダー、極端に異なる2台を交互に乗った時、どのような感想を抱くのか?
ステルヴィオを購入したときに思った「不安なこと」の1つに、セカンドカーとして昨年購入したアバルト124スパイダーの立ち位置が微妙にならないか?というものがあった。
どういう意味か?
簡潔に書けば「アバルトをつまらないクルマ」と感じてしまわないかということ。
ステルヴィオの最強グレード、いやステルヴィオだけでなく世界中のSUVを見てもモンスターというかSUVの本来の役割としてはまったく不必要な「速さ」に特化した性能を与えられたクアドリフォリオはそれくらいに「ぶっ飛んでいる」クルマだと短距離走っただけでも感じられる。
そんなハイパフォーマンスカーから、8万kmも走り各部がそれなりに病んでいるアバルト124スパイダーに乗り換えたらこれまでアバルトに感じていた「楽しさ」だったり、「蠍の毒」という抽象的かつ詩的に表現されるものが色あせないだろうかという不安があった。
少なくとも、アバルトの毒は強烈で、メガーヌとアバルトを交互に乗るとメガーヌがどうにもつまらないクルマに感じられてしまい(感じ方には個人差があります、単にイタシャが合うか、フラシャが合うかってとこも含めて)、それゆえにメガーヌはメインカーから降格し、ステルヴィオへと交代することになった。
もちろん、セカンドカーを乗り換える予定も、そんな財力もないけれど、「つまらない」と感じたら売却されることは普通に自分ならある話ではある。
それくらいに、ステルヴィオは、いやクアドリフォリオの持つ強烈な個性は光る。
蠍の毒もまた強烈だった
心配はまったく徒労に終わった、アバルトはまったく色褪せなかった。
というよりも、これがアバルトでも124スパイダーだったからというのは多分色褪せることのない大きな理由だったのかと思う。
ステルヴィオはハイパフォーマンスカーだが、運転席に座ったときにハイパフォーマンスカーを1mmも感じることはできない。
500馬力もあるけれど、視点の高さは普通のSUVです。
良くも悪くもだが、普通のクルマとしか思えない運転席で500馬力オーバーを操ることになるステルヴィオ クアドリフォリオと座った瞬間からやる気にさせてくれるマツダ・ロードスターベースの運転席を持つアバルト124スパイダーとでは演出が全然違う。
最終的にどちらが速いかとか、そういうのはもうどうでもよくてアバルトはこういうドライバーを燃えさせる演出がうまい。
またオープンカーであるというのも大きい。
普通のスポーツカーであればそもそも自分は買わなかっただろうけど、オープンという非日常の世界が、非日常(実用的ではないという意味)のスポーツカーといいバランスで融合したことでアバルト124スパイダーは独特な世界観があり、またエンジンをかければレコードモンッツアから発せられる下品なまでの爆音がヘルメットで遮音されるバイクよりも強烈に耳に届く。
そう、アバルト124スパイダーは五感を刺激するクルマだ。
それはバイクでもよくある話なので、ライダーなら経験があると思う。
大排気量のバイクには憧れるし、実際それなりに楽しいところもあるんだけれど、300km/hも出るようなバイクは日常では持て余す。もちろんツーリングにも使えるけれど、そのサイズ感・重量・燃費などを考えるとある程度大排気量を愉しんだライダーこそ低排気量に回帰したり、同時所有したりする。
大型二輪は楽しいが、軽量でひらひら動く低排気量は手足感が強くとてもファンだ。
贅沢な話かもしれないけれど、そういうことで、だからアバルトの1,100kg台の軽さ、オープンの楽しさ、古典的FRスポーツのパッケージングに、ターボでわずかにトルクを増やしてコントローラブルになり、かつ速さも手にしたアバルト124スパイダーの持つ世界観は決してステルヴィオ クアドリフォリオに負けてはない。
それでもやっぱりクアドリフォリオは凄かった
そももそも論、SUVとオープンスポーツカーが同じ土俵で楽しさを語られることが異常なことなので、それだけでもクアドリフォリオの凄さがわかっていただけると思う。
納車後すぐにエアクリをあらかじめ購入しておいたBMC製のものに交換した。
自分のこだわり?というのとはちょっと違うかもしれないけれど、買ったクルマはすべてエアクリを高効率タイプに交換する。
ジュリアのクアドリフォリオに毒キノコ2連装していた海外ニキもいらっしゃったが、日本でどこで買えるのかわからなかったし、そもそも予算的な都合でクアドリフォリオはそこまでカスタムできないので安価な純正交換タイプにした。
これだけでも普通のクルマであれば変化は如実に体感できた、今までは。
クアドリフォリオでは、ごめんさっぱり体感できない(ぉ
BMCがどうとかでなく、そもそも500馬力を超えるクルマなのでエアクリを交換しただけで体感できる幅というのは低出力、低トルクのクルマと比べると狭めなのかもしれない。
吸気効率があがって低速トルクが減った感じは割といろいろなクルマで体感できる現象であったけれどクアドリフォリオの600Nmという頭のおかしいトルクを前にしたらそんな減少率は微々たるものってことだろう。
まぁなんにしても「よく吸って、よく吐く」がターボの基本だと信じているので自分の中で交換することは必須だった。
ステアリングにはカーボンシートを貼った。内外装の細かな変更をメインにやっていこう
納車して間もなくなので、クアドリフォリオの全開をまだ試していなかった。
なので、エアクリを変えた日の夜にいつものテストコース(意味深)に走りにでかけた。
空いている道で、少しだけアクセルを多めに踏み込むと体はシートに張り付き、車格からはイメージできない怒涛の加速を見せる。見せるんだけど、車重から来る安定感で「まっすぐ」は恐ろしさをさほど感じない。
ただ、スピードメーターはとんでもない数字を表している。
アバルトならまだ3桁に到達するか、しないか、そんな速度域でクアドリフォリオはアバルトの制限速度(意味深)を超えようとしている。
ゼロヒャク3.8秒は伊達じゃないが、本当の恐ろしさはそんな速度域でも緊張感なく、音楽を聴きながら同乗者と会話ができてしまう遮音性の高さなのかもしれない。
先ほどから同行者が助手席からちらちらとメーターを見ているのは、明らかに流れる景色がおかしいからだろう。
新幹線とは言わないものの、助手席の同行者が経験したことがない速度にクアドリフォリオはあっという間に達してしまう。
視点の高さも、その速度感のなさを助長する。
気が付けば(免許が)危うい、そういうやつなのだクアドリフォリオは。
感動と官能を
STELVIO(ステルヴィオ)| SUV | ALFA ROMEO(アルファ ロメオ)
ステルヴィオもといアルファロメオはかなり前からDNAと呼ばれるドライブモードシステムを採用している。クアドリフォリオには通常グレードにはない「RACE」モードも追加されているが、まぁ公道では「Dynamic」までで十分だし、一番マイルドな「Advanced Effciency」でも十分だ。
マイルドなAEですら、その加速はメガーヌ3R.S.より遥かに速い。確かにアクセルを踏む量は増えるが、どのモードでもアクセルをきっちり踏めば500馬力の恩恵にあやかり、「後続車、信号青になったの気づいていないのかな?」ってレベルの距離を取ることができる。
「Natural」や「AE」、いや「Dynamic」でさえアクセル開度に気を付けていればクアドリフォリオとはいえただのSUV。とんでもなく普通に流せてしまう。
排気バルブを閉じていれば加速時に炸裂音はしないし、快音も響かせない。アクセルを開けなければ周囲に完全に溶け込めるところがこのクルマの凄いところだ。
ただ、我慢できるかどうかは別問題(ぉ
普通に乗るとV型らしさをあまり主張しないエンジン、モード「AE」なら気筒休止とコースティング(クラッチを切り離して滑走する)が使えるので、静かだし、エンジンブレーキも全然かからず、変速スピードは限りなく遅い普通のSUVになるため「500馬力のエンジンを積んでいるモンスター」をドライバーも感じない。
予備知識ゼロでクアドリフォリオに乗り、一度もアクセルを半分手前まで踏み込まずに運転させたら、このクルマをモンスターだと認識する人は恐らくいない。なんならエンジンにV型が積まれていると気づく人すら少ないかもしれない、それほどに静かだ。
ただ、オーナーは知っている、いや知ってしまった…このエンジンの持つ官能の世界を。
だから、トンネルに入れば窓を開けて、排気バルブをON(開放)にして、「Dynamic」にダイヤルを回し、マニュアルモードで高回転を使う。
反響して耳に入るエンジンは国産のV型6気筒には出せない快音と、そしてアクセルペダルから伝わる気持ちよいフィーリングをドライバーに伝える。
その瞬間にフェラーリの血が流れたエンジンであることを理解する。速いだけなら国産のV6ターボエンジンで十分だけど、わざわざアルファロメオのクルマに新車で1,000万出せる人はこの官能が欲しかったんだろうなと本当に思う。
官能を味わいたければ、対価を払え
エコカーではないから覚悟はしている、でも辛いものは辛いんだ
なんにせよ官能を味わうにはそれ相応の対価を支払うことが求められる。クアドリフォリオでエンジンの官能性を味わうための対価はガソリンだ。
覚悟はしていたとはいえ、いつものドライブコースで某大黒まで往復した100kmいかないくらいの距離での燃費は7km/L台だった。
会社の同僚にフェラーリの割と新しめのモデルに乗っている子がいるが、「高速燃費ならフェラーリの方がいい」と馬鹿にされた。
なんで燃費が悪いのか?考えるまでもなく、そもそも燃費がよくなる要素がどこにもない。
車重は1,900kgを超えているし、タイヤはフロント255、リア285の20インチを履いている。エンジンにしたってわずか2.9リッターで500馬力を超え、低回転時で既に600Nmものトルクを出すようなツインターボエンジンは現代の風潮に対するアンチテーゼとしか思えない。
存在自体がレジスタンスなクアドリフォリオ…一応アルファロメオはフェラーリのV型8気筒6気筒化する際に本来は装着されていないアイドリングストップや気筒休止、コースティング機能を用意したが、そんなものは焼け石に水だ。
そもそもアルファロメオのオーナーはバッテリー不安を抱えているのだからアイストなんか常にオフだ、自分が買った中古だって前のオーナーが何もいじっていないように見せかけてアイドリングストップキャンセラーは付いていたので、エンジンON時には無効にされているくらいにそもそも誰も使わないし、使わなくなる。
燃費を気にするならディーゼルのSUVに乗れ、それが一番幸せだ。
クアドリフォリオを買うということは、ガス代でごちゃごちゃ言ってはいけないよってことなんだろうけど小市民には意外ときつい現実だった。
アバルトは我が家のエコカー!なんと街乗りでリッター10kmを超える
そのきつい現実に対する対応として、アバルトが家にある。こいつは街乗りではリッター11~12kmも走る。ステルヴィオで通勤したらリッター4kmだった、死ぬぞ?
そう考えると、アバルトはこの燃費のよさで、直4エンジンながらクアドリフォリオとは別ベクトルの官能性と楽しさを持っているからコスパがいいし、素晴らしいクルマだと思うよ。
試しに一度、クアドリフォリオで徹底的な高速エコランをやってみたけれどそうするとリッター12kmは走った。ただ、何十分もかけて出した燃費は、一瞬でも高回転を使うと激烈に下がる。
そもそも我慢して走るのは物凄くフラストレーションが溜まる。
こんなに気持ちのよいエンジンを持っているのに、なんで我慢が必要なんだい?
燃費なんか気にせずに、ガンガンアクセルを踏んでいこうぜ…そんなクアドリフォリオの悪魔の囁きにドライバーは抗い続ける必要があると感じた。
これから本当に、いつまでこれを維持できるんだろうか?
そんな不安を感じた初日ではあるものの、まぁ40代を始める最初のクルマとしては申し分ないし、案外気に入っているのでヨシとしようか…