2021年9月4日(土)、あと2日もすればパラリンピックも終わり首都高のプラス1000円期間も終わろうというそんな時期にX-ADVの試乗、そして結果として購入になったお店に向かいました。
X-ADVの登場は2017年4月、当時すでにあったホンダNCシリーズの兄弟車的な扱い、アドベンチャースタイルを模したスクーターという「キワモノ」的な形で登場し、1台限りで終わるかなと思いきや2021年3月にマイナーチェンジを実施して現行型となりました。
自分が現在乗っているスクーターはこのX-ADVの雰囲気を150ccに落とし込んだADV150なわけですが、こちらのスクーターはなかなか売れているみたい。
自分が乗り始めたころはまだ国内仕様が発売された直後だったので数は少なかったですが、今や通勤すれば日に5台、6台は余裕で見るほど。スクーターとしては見かける台数は少ないと思うかもしれませんが、コストパフォーマンスを重視する通勤車両としては絶対王者PCXがおり、価格もADVに比べれば大幅に安いため趣味性を求めない限りADVが選ばれることはないはずなので、それでもこれだけ通勤で目にするということはそれだけ人気があるということなのでしょう。
その兄貴分なX-ADVは逆に全然見かけません、珍しすぎてたまに見かけると「X-ADVやん!」となるくらいに見かけない。
今回購入に至ったわけですが、それもADV150という弟分に乗っているからこそ検討にあがった程度で、そうでなければそもそも「あったっけそんなの」くらいだったかもしれない(汗
そんなX-ADVですが展示車もすぐ売れるとかで跨りの確認すら近隣店舗ではできず、Rentalバイク的なものも最寄にないので遠路はるばる試乗車がある店に向かいましたが、そこで借りることができたのはMC前のモデル。
現行型にもまたがることはできたので脚付きは確認できたし、あとは実際の雰囲気がどんなものか・・・この試乗をする時点では「ADV150のボアアップをしようと思ったらADV750になった」くらいのネタだよなぁ程度で買う気はゼロだったのですが、あら不思議…気が付けば次の1台はこのX-ADVになっていたというわけです。
はじめてのDCT
ホンダのNCシリーズはその存在こそ認知はしていましたが、そのイメージは「ATで安い大型二輪」でした。実際大型二輪ながら400ccクラスの価格帯で乗れ、燃費も大型二輪とは思えないほどによい、しかもAT(DCT)という大型二輪に乗りたいけど…っていう層からは一定の支持があったようには思います。
ホンダは10年以上も前から二輪車用のDCTには積極的でこのNCシリーズだけではなくVFR、ゴールドウィングなど様々な商品にそれらを展開しています。
二輪車はもともとAT限定という免許が存在せず、400cc以上のビッグスクーターなどを乗りたい場合でも普通の大型二輪免許を取得する必要がありましたが2005年にAT限定免許が登場しました。ちょうどその時期に大型二輪の免許を取得したのですが、教習科目に大型AT(確かスカイウェイブ650だったとおもう)が追加されました。AT限定はもともとクラッチがないバイクがこの650ccのスクーターまでしかないという理由で排気量制限が650ccまででしたがホンダがDCTモデルを増やしてきたことで制限が撤廃され教習車もNC750になったという経緯があります。
大型二輪自体、完全に趣味の領域なのであえてATで乗るか?と言われれば自分としても「うーん」でしたが、まぁとにかくDCT。
四輪では特にルノーは全車DCT(全車に採用することで導入コストが下がるから排気量問わずDCTらしい)を採用していますが日本車ではまだトルコン式ATの方が主流です。というより渋滞が多い環境ではDCTよりもトルコン式のほうがメリットがあるというのは確かなのですが。
ただ二輪でDCTというのはどういう感覚なのか?
恐る恐る乗ってみたのですが一言で言えば「普通」。
ただアクセルを開けていくと股下で小さいおぢさんが勝手にシフトチェンジをしてくれているようで「ガチャン、ガチャン」とギアが変わる音がし、これが無段階変速を採用するいわゆるオーソドックスなスクーターとの違いであることを認識させられます。
音はするけど自分では何も操作をしないというのは慣れるまでは相当な違和感ですね。
マニュアルモードもあるのでボタン操作でシフトアップ・ダウンも任意に行えますが、街中を走っている分にはエンブレを効かせたいなぁと思う瞬間に「ー」ボタンでシフトダウンする程度で、基本は車体側のプログラムに任せておいてもそこまで違和感はないように思いました。もちろん、ワインディングや高低差の激しい道を走る、オフロードなどを走るといった場合はプログラムに任せるよりもマニュアルモードを使った方がよいでしょう。任意変速の場合でも、自動車のAT車同様にエンストを防ぐために指定回転数を下回れば勝手にシフトダウン…そして停車をすれば勝手に1速のままクラッチが切れた状態になります。
発進や低速での取り回しに気を使わなくていいなと思う反面、DCTのプログラムをどこまで信用できるか?という話もあり、実際動画などを見ているとDCTでもエンストすることがあるようで、そうなるとMT車であればクラッチをきって回転数を上げたりなど調整はできますがDCTの場合はアクセルをあけた瞬間に吹っ飛ぶのでエンストして転ぶってことにはなりそうな気がします。
実際長い時間乗ってみないとその辺のネガは見えませんが短時間の試乗、しかも街乗りであればDCTは相当ラクでよいと思いました。
パワー絶対主義に反するエンジン
DCTだから乗りやすいというのはもちのろんですが、何よりこのエンジンが素晴らしいのです。
大型二輪に乗るのだから大排気量、高出力、アクセルを軽くひねるだけでオーバー200の世界に突入するぜみたいな世界は自分は大好きでした。というよりそれが大型二輪の価値だとすら思っています。普通に走る分には言ってしまえば150ccあれば高速道路も走ることができる、それなのに1300ccのバイク、もっといえばトライアンフ・ロケット3のようなバカげた2500ccの排気量なんて不要なわけですね…2500ccなんてADV150の10倍じゃすまないわけですよ、排気量w
それが大型二輪の魅力であることは間違いないと思いますが、でも結局その排気量でその高出力をどこで使うのか?実はそういうものを求めていない層が余裕の排気量で楽々ツーリングできるバイクを求めているのではないかというスペック絶対主義に対するアンチテーゼのようなかたちで作られているようなNCシリーズに積まれ、進化を続けてきたエンジンは排気量の割にはとがっておらず乗りやすい。
近しい排気量ではMVアグスタのブルターレ800RRに乗っていましたがあちらは798ccとX-ADVの745ccに比べれば50cc原付1台分くらいの排気量差しかありませんが140馬力とX-ADVの58馬力のおよそ2.5倍もの出力を発生させています。
MC前は54馬力と同排気量どころかあの名車CB400よりも低出力。馬力は回転数をあげればそれに応じてついてくるものですがこのエンジン、自動車並みの低回転型で先ほどのブルターレが14000回転まで回して140馬力をたたき出すのに対し、X-ADVは58馬力/6750回転と58馬力とブルターレの半分も回していません。
同時に最大トルクの発生回転数も69Nm/4750回転と自然吸気の自動車並みです。
自然吸気の四輪車では660ccが軽自動車規格で750ccなんて中途半端な排気量は日本では現在は市販されていないと思いますが軽自動車を参考に見てみると日産デイズの自然吸気が最高出力52馬力/6400回転、最大トルク60Nm/3600回転でした。
なので性能だけ見ればとがったところはまるでなく、むしろ大型二輪なのにこの程度のエンジンスペックなのかよと思い事前にカタログスペックだけは頭に入れていたので走行性能に期待は微塵もしてませんでしたが意外や意外、これがね本当によく走るんですよ。
MC前はTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)ではないので単純にそういう味付けなんでしょうけど少しアクセルを開けると図太いトルクが湧き出てきて思ったよりも前に進み、変速音が股下から聞こえてくる他は非常に静かに、スムーズに気が付くと「おっとやばい」って速度に達しています。よくいうスピード感がないって感じでしょう。
これがレーサーやハヤブサのようなクラスだと?
「殺人的な加速だ」となりますが、そういうのが一切なく、エンジンだけじゃなく車体側の出来もよいのでとにかく安心して走ることができる、これで長距離走ったら絶対楽だろうなという癖のなさなのでした。
58馬力でも十分じゃん!こういうのがあるからエンジンってカタログスペックだけじゃなわからない、面白い。
不思議なポジション
X-ADVのポジションはまたこれ少し不思議です。幅広のハンドルがありながら、足元にはスクーターを思わせるフットボードがあり、ブレーキだって左手についている…自分がどんなバイクに乗っているのかよくわからなくなります。
こんなバイクだよ。
とにかくあらゆるジャンルを詰め込んでいる感が凄く、ホイールはチューブレスだけどスポークホイールだしハンドルも幅広でアドベンチャー風だけど、ポジションは完全にスクーターだけど別に完全にスクーターといえるわけでもないし…というある意味でSUV的なジャンルにカテゴライズされるバイクなんだと思います。
脚付きはあまりよくないですが、ギアチェンジが必要ないバイクなのでADV150でもそうなのですが自分は厚底のトレッキングシューズを履いて乗っています。すると脚付きは多少はよくなるのでこの手のバイクではお勧めかもしれないですね、そういう雰囲気もあるバイクだし似合わないということもないでしょう。
実際、脚付きが悪いとはいえ完全なアドベンチャーよりはずっとよいです。日本仕様は3cmだか4cmもともとローダウンされているということもありますし、MC後はシート形状も変わっており脚付きは改善されたとも言われています(気づかなかったけど)
試乗を終えて
尖った何かを持ち合わせているとすればそれはこの見た目でしょう。欧州ではかなり人気があるとのことですが、ロボットアニメに出てきそうなこの顔つきは好き嫌いは分かれると思いますが嫌いでないなら似たものがいない、ADV独自の世界観があります。そういう見た目のインパクトとは裏腹にとにかく乗りやすい、これが大型二輪なのかと思うような、でも大型のアメリカンなんかともまた違った乗りやすさです。
パワーが絶対だと信じて、次のバイクもハヤブサやロケット3のような0-100km/h加速で3秒台みたいなバイクを考えていた自分にとってはとても衝撃的。大型二輪も何台か乗ったとはいえここまでマイルドなバイクはなかったのですが、逆にいろいろと乗り、40歳手前になって思ったのは「心の余裕」が重要だよなってこと。
ハイパワーを使い切りすべてを点にできる性能も余裕のひとつではありますが、それは同時に大きなリスクも伴います。そうではなく高速道路であれば第一車線を法定速度でゆったり走るのもまた余裕なのです。なまじパワーがあるほうが飛ばしたくなる、それを抑える自制心が求められるのが大型二輪だと信じていましたがこういう「普通に走れる」余裕もまた大型二輪の持ち味なのだなとX-ADVは教えてくれました。
本来なら増車を考えていたのですが、駐輪場の問題で1台しか停めることができないという問題があり、それゆえに半年くらい前から検討していた増車も駐輪場問題でとん挫していたのですが、これであればADV150と入れ替えても、当然重量があるので気軽にとはいかないにせよ1台ですべてできるんじゃないかという思いもありました。
大型二輪を愛する皆さんの中にはこんなのは大型二輪でないと思う方もいるのだと思います、自分もそっち派でした。ですが交通事故の後遺症で前傾姿勢のポジションに長時間耐えられない、腰痛もそもそもやばいという中で楽に乗れる大型二輪があってもいいと思うようになれた、そんな新しい価値観を芽生えさせてくれるバイクなのではという可能性を感じ今回購入に至りました。
現行(2021)モデルがまたカッコいい
試乗を終えてお店に戻り、全然走っていないグレーカラーの中古車を契約することにしました。
なぜ中古なのか?それは単純に新車の納期が未定だからです。コロナ影響で製造が遅延していることもあり、入荷したら早い者勝ちみたいな感じになっているとのことで実際何店舗か回ったのですが展示車は軒並み契約済だったので跨れず、次に入る車両も予約が入っているし、そもそも最短で月末だからカラーの確認しかできないみたいな話をされたお店もありました。
たまたま行ったお店にはこの中古があり、値段は正直新車と10万円もかわらないため新車を買った方が絶対にいいと思うのですがハンドル回りにUSB電源がついていたし、なにより自分は新車よりも中古車のほうが好きなので(気持ち的に楽に乗れる)そこはもう納期優先で中古を買ったというわけです。
登録から3か月で366kmって逆に走らなさ過ぎてなんで買ったの?って気がするんですが、そういえば今のADV150も納車時点では500km弱の走行距離だったので乗らない人は本当に乗らないんですね…逆に366kmで三カ月の車両って初回のオイル交換どうしたらいいんだろうw
お店にはMC前の新車も置いてあり、当然在庫をさばきたいでしょうからそちらももうプッシュされましたがはっきりってよほどデザインがMC前が好きという理由でなければあえてMC前をいま新車で、しかも現行モデルの10万円おちくらいの価格で買う必要はないというくらいにMC後の進化は素晴らしいものがあります。
見た目は大きく違い、もともとロボテイストが強かったですが今やザンスカール帝国のMS。
ライト形状はより独特となりましたが、それは国内二輪初のDRL(デイタイムランニングライト)が標準装備されたから。四輪車では既に認可されており、プジョーなんかは特徴的なライトが採用されていますが、二輪はこれまでNGで昼夜問わずヘッドライトをONにしておく必要がありました。
そもそも常時ライトONの法規制は98年から開始されたもので、昔乗っていたハヤブサは01年式でしたがライトOFFスイッチがあったため(北米モデルだったから?)車検のタイミングでOFFスィッチをお店で加工されOFFにできなくなりましたw
欧州では2011年からDRLが認可されていましたが日本ではNGだったため国内に入るモデルはそのあたりの設定がいじられたりしていましたが、特に台数が出ない二輪車で国別の仕様があるのはコスト高にもなり販売に悪影響を及ぼすだろうと今はあらゆる規制が国内・国外モデル統一される傾向にありますがDRLもそのひとつで2020年秋より解禁されその第一弾がこのX-ADVだったということです。
スタイルの他にも細々した変更はあり、たとえばシート下のラゲッジが1リッター容量アップしたり、先の試乗で触れたようにエンジンも吸排気のチューニングで4馬力も出力をUPしたり、特に制御系で大きいのは今までワイヤー式だったスロットルを電気式のTBWを採用したこと。
これによってトラクションコントロールなどとの協調制御が可能になり、より緻密にエンジン制御ができるようになったってわけで試乗こそかないませんでしたが確実に乗りやすさも増しているだろうし、またTBWはセッティング次第ではパワー以上に過激さを体感できる要素もあるのでスポーツモードでは結構よく走るとレビューでも目にします。ただ残念なのはTBWがあるんだからクルーズコントロールも欲しかったね…DCT搭載モデルでも1100ccエンジンのアフリカツインやレブルには搭載されているのでもしかすると2022年モデルとかでしれっと採用されるかもしれません、そうしたらちょっと悔しいねw
それらの性能面の進化も素晴らしいけれど、一番のお気に入りはこれ。
先代ディスプレイも斬新だったけれどMC後はフルカラー液晶になってホンダのボイスコントロール機能も搭載されたのでターンバイナビ表示や音楽の操作もできるようになっているそうで実に今風のバイクになっています。
もともとX-ADVというかはホンダのバイクはスマートキーを多く採用していることもありますが、国内のバイクであまり液晶ディスプレイに「これだ」というデザインのものがなかったのですが近年のホンダに採用されるフルカラーディスプレイの表示は本当に恰好よく、アフリカツインを当初は欲しいなと思ったのもスマートキーにこのフルカラーディスプレイがあったから、といっても過言ではありません。
メーター周りはよく目にする部分だけにチープな表示はちょっとなと思います。もちろんアナログがいいんだよという人がいるのも事実ですが、自分は時計にしろ何にしろデジタル派ですし、メーターに関しては断然フルカラー液晶派です(これは二輪だけでなく四輪も)。
今の時代、アナログで車種別に雰囲気を生み出すより液晶にして表示内容を車種に合わせたほうがコストもかからないと思うんですけどね…
とにかくこの装備面のアップグレードが一番の魅力で、だからこそ現行モデルを選んだというのが理由です。
中古でもそれなりにいいお値段するでしょう、だから新車で買った方がサービス面でもお得ではないでしょうか?なのでこれから買う人は予算の都合もあるかもしれませんが新車のほうがいいはずです。中古でも使えるのかわかりませんし、あまり自分は使いたくないので調べていませんが残価設定ローンなんかは中古車では組めないと思うので支払いに融通が利くのも新車だと思います。
10月に参加予定のSSTRもADV150ではなくこちらで参加します。それまでにいろいろとやるべきことはあるのですが、久々の大型なので納車後は慣らしと一度目のオイル交換も実施しライダーもマシンも万全の状態で臨みたいと思います。
ではでは今回もご覧いただきありがとうございました。