息子が階段からジャンプしてつま先から落下、爪が剥がれそうになり病院送り。
冬ということもあり、ほぼ毎週風邪や何かで通院する。
休暇というものは通院か仕事で吹き飛ぶものだと心得た。
久しぶりに、仕事の話でも書こうかなぁと思ってみた。
自分は今まで職業であるインフラエンジニアが生き様であると思ってやってきたのだけど、2017年に入り立場が完全にエンジニアではなく危機管理のマネージャー化した為に業務内容が大きく変わった。最早誰からもエンジニアであるとは思われていない。事あるごとに仕事をくれる監査役に対し、「会計監査?ぼくエンジニアなんすけど」と答えるのも最近は面倒だ。
ドキュメント 会計監査12か月〈PART1〉山中氏のつぶやき
- 作者: 白石伸一
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なので最近は自分は「インフラエンジニアではない、インフラ探偵だ。」とどこぞのNEET探偵みたいな事を言うようになった。
危機管理の仕事は多岐にわたるが、根底にあるのは「会社の利益を守ること」ならすべてやるだと思っている。とにかく幅が広い。この数ヶ月だけでもエンジニア時代には絶対に経験できないことをさせてもらえている。
実際に対応していくと、恐らくどこの会社にもこういう話はあるんだろうけど、大多数の社員は気づかないままに会社員人生を終えるんだろうなと思うようなことが非常に多いと気づく。知っているのは経営陣と危機管理みたいな話は結構あるのかなと思う。
タイムリーにこんな事件があったが、この話だって企業規模を考えれば把握していた従業員はほんの一握りで大多数はニュースリリースされる直前くらいに知らされたはずだ。また、被害規模が億に登るだけあってニュースになるが、金額が百万円くらいまでの横領であれば割りとどこの企業でもあり得ることなんじゃないか?と最近思う。
先日、社内で被害規模は日清のよりもだいぶ、カスみたいな額ではあるが横領が起きたことを伝えられた。それを持って危機管理に飛び込んできた話は「横領をシステム的に防げないか」だった。ぼくは即答した、「無理だ」と。
完全に横領を防げる仕組みやシステムはどうしても存在しない。
いやいや、なんとかすればどうにかなるでしょ!と思うかもしれないけど無理なのだ。
お金を扱い、お金にセンシティブにならざるを得ない銀行は当然チェック体制やシステムは事件を防ぐ前提で構築されているはずで、その対策は一般企業の比ではないと想像できる。けれど実際に事件は起きてしまっている。それなのに一般企業である我々がたまたま起きた横領を防ぐ仕組みを一日、二日で構築できるか?と言われたらまず無理だ。
そもそも事件自体を防ぐことは絶対にできない。
交通違反をしたことがない人がいるか?と問われたら、一度は軽微な違反くらいして検挙されていたりする人がほとんどだろう。また、検挙されないにしてもただの一度も交通法規をやぶらない運転をしている人がいるだるか?たったの1km/hの速度違反もせずだ。多分そんな人はいない。
「別にそれくらいいいだろ、誰も守ってないじゃん」
その考えを企業内に持ち込めば不正がいとも簡単に起きてしまうんだろうなぁと。
気づきの仕組みも難しい。
銀行の事件を見ても分かるように、大抵は何年も気づかない。なんで気づかないのか?と思うかもしれないけど実際事件が起きている現場にいると何故かそれに気づけ無いから不思議で仕方ない。弊社で起きた事件の場合はたまたま会計監査のタイミングが早かったから1年以内に発覚したし、明確な証拠が残ったのはここ1ヶ月くらいの横領に関してだけなのだけど巧妙にやられると本当に理解らない。
まぁ気づけ無い原因は気付ける人間にリソースを割けない。チェック体制の甘さにもある。あとは周りの人間からの報告に耳を傾けられないことだ。
ぼくは入社当時から最終的に危機管理専門の人になる想定で来ているので、まず最初に何をしたかといえば各部にひとり自分の味方を作ることだった。男性が苦手なので、ほとんど女性だけど、それは別にチャラ男気取るためでもなんでもなく、一般論で言えば女性の方が社員間の噂話やプライベートな話を持ってきてくれることが多いからだ。男は一般的にそういう話しにあまり興味がない。
雑談の中で得られる情報は非常に有意義で、半年かけて集めた情報がやっと先日別な事件の全容を把握するために役立つほどに、バカにできないものだ。
全社を見渡せないぼくの場合は人づてに情報を集めるのがもっとも効率がよかった。
例えばの話、横領があったというときに何を参考にするかと言えば、お金の問題は大概素行に現れる。よくあるような「急に羽振りがよくなった」、「いいクルマに乗り出した」、「海外旅行に頻繁に行くようになった」などだ。ぼくも前職でそれを疑われた立場だからよくわかる(ぼくの場合は副業が本業の給与を上回っていただけだが)。別にそれができる給与テーブルに位置する人であれば問題ないけど、大概はそうじゃない。そのときに違和感として「なんでこの人、うちの給与でこんな生活ができるんだ?」と疑う目があってしかるべきだ。
横領した社員の場合、平社員であったし、そのメンターには課長、部長クラスが当然いた。けれどその誰も、問題社員の素行に気付かず、事件発覚後に「そういえばあいつ妙に金遣いが…」みたいな話しになって「ばかじゃねーの?」と思ったものだ、口にはしていないけど。
立て続けにそのような事件が起きて若干陰鬱な気持ちになって最近本を買った。
なんで不正が起きてしまうのか、この本を読んでいると「うちの会社のことだ!」と妙に納得できてしまうから不思議なもので、またそのとおりだと思えることがたくさん書いてあった。経験として不正が起きた現場を知らない人からするとフィクションに思えることも、現場で対応している人間からするとリアリティを持って頷けてしまう怖さが本著にはある。
タイトルからして分かるように不正をするのは「普通の人」だ。
日清の場合もただの「社員」だし、三井住友の場合も事務員だ。社長や役員クラスの場合もそりゃあるだろうが、結局は普通の人でしかないというのは先の本の結論になってくる。簡単に書いてしまえば問題解決するスキルがないから不正に頼る。
横領で言えば、自力で借金を返済する方法が見当たらないから会社の金をちょろまかす。本当にすごい人ならたとえば副業や何かでお金を作れるはずで、犯罪に手を染めないし、そもそもそのお金が必要な状況には陥らないからだ。
弊社で起きた横領事件の問題社員も他の社員からの評価は抜群だった。
マネージメント力も含め、将来有望と判断されているような子だったが、裏では百万円近い金を半年の間にポケットにいれている。
人は見かけによらないとはこのことだ。
むしろ就業規則なにそれ?なTシャツで、就労マナーなにそれ?でペコちゃんキャンディ食わてえ椅子にふんぞり返って仕事しているようなぼくが危機管理をやっているのだから世の中いろいろどうかと思う。ぼくに指導をしてくれている監査役に言わせれば「お前は根っからの悪だから、会社で悪さはやんねーし、悪いやつに寄り添えるから犯罪に気づけるんだ」と最高の褒め言葉を頂いた。ぼくは悪人じゃないかそれ。けれどこの仕事は確かに悪さをしてきた人間だからこそ…というのもあるのかもしれないと最近思う。
根がいい人だと性善説モデルを信じて悪意に気づけ無い。
けれど悪い人は穴をみつけて悪さをしでかそうと企むから性善説そのものの存在を否定的に見ているし人の悪意に気づける。
- 作者: 西村あさひ法律事務所危機管理グループ,尾崎恒康,平尾覚,大賀朋貴,船越涼介
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2014/10/29
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事件が起きるのは仕方ない。だからそれをいち早く発見して対処できる仕組みが必要だ。それを考え、実際に動くのが現状の危機管理のお仕事だ。見せしめではないが、起きたことを社内にリリースして「うちの会社で悪さはできない」と社員に思わせることも必要でそれは危機管理というよりは経理部門含めた管理部門全体の腕の見せ所だ。結局、この危機管理はひとりでできる仕事じゃない。会計のプロに協力も仰ぐし、システムのプロにも依頼する。何を使ってもとにかく会社にとってのマイナスを減らすことが最優先だ。
ほんととにかく問題が色々と多い。その対応にあたりストレスも半端ないものだ。
毎日のように飲まないと心が折れそうで仕方ない。それだけ自分もまだ汚れきれていない。汚れることを楽しめない。指導者である元国税の監査役は「こういうのを楽しめる人間になんなきゃな」と言うがインフラエンジニア時代の楽しみ方とはぜんぜん違うし、人に喜ばれる仕事がしたかったのに、今では敵対する人間のほうが多いんじゃないか?ってくらいに背後から刺されることも考慮してPCをいれたリュックを背負うようにしている。PCを貫通できるナイフは早々ないからねw
けれど自分がその仕事を完遂できないと会社が駄目な方向に向かうし、それは普通に働く人にとってはマイナスだ。会社の利益を失えば給与にも響くし、直接的に感謝されることはなくても知らぬまに大多数が平穏無事な会社員人生を送れるようにするのが危機管理のしごとなんだと信じてやるほかない。
可愛い社内の妹分たちに励まされながら日常は続いていく。来週の大型案件を片付けたらほんと温泉でも行って一息つきたいものだ。秘密を抱えすぎると人間はろくな精神状態にならないと思う。不正が蔓延する社内で誰が信じられるのか?という話を先日部長としたときに「誰も信じるな」と言われ、監査役には「自分だけ信じろ」と言われた。それくらいに誰が敵なのかわからないのが今の状況。敵味方を考えずにみんながハッピーに過ごせる、そんな会社になってくれたらいいし、そういう会社を作らなきゃいけないのだろうけどなかなかどうして難しい。